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Location, Culture

バンクシーとパレスチナ

ちょっと前に芸術の異端児バンクシーについての記事を書きましたが、今回も引き続きバンクシーの魅力について書こうと思います。

メッセージ性の強いストリートアートで知られるバンクシーですが、彼の作品の本当の面白さは、アートが出現する場所やタイミングなどが巧みに計算されている、という点だと言えます。そうすることで、バンクシーはアート本来が持つメッセージを、二倍、三倍のインパクトを加えて世に送り出し、それがSNSなどを通じて拡散、話題となり、ついにはちょっとした社会現象を巻き起こすに至ります。毎度のように、このようなシナリオが用意されているので、彼の作品が世に出る度に、今回はそうきたかー!と、世界が騒ぐのです。

バンクシーの中東・パレスチナにおける熱心な活動が、そのいい例です。パレスチナとイスラエルの間で繰り広げられる領土問題。1947年の国連によるパレスチナ分割決議や1993年のオスロ合意など、 世界各国が仲裁に入り長年にわたって和平の道を目指すものの、なかなか解決されない問題です。2002年、イスラエルは国の安全を確保するためという名目で、入植地を囲むように高さ約8メートルの巨大な壁を建設し始めました。この壁は現在、分離壁と呼ばれています。パレスチナ問題に何年も前から大きな関心を寄せていたバンクシーは、パレスチナに足繁く通い、ベツレヘムにある分離壁にストリートアートを描き始めました。

現在、分離壁には世界中のアーティストのグラフィティが所狭しと描かれており、これらのアートを目当てにベツレヘムを訪れる観光客の数も年々増加しています。アートと観光を通じ、世間の関心をパレスチナ問題に向けるようにしかけた第一任者は、紛れもなくバンクシーなのです。

その分離壁に描かれたグラフィティのひとつに、天使のステンシルがあります。神様の遣いである天使が、壁をこじ開けようとしている絵は、バンクシーの平和を願う気持ちが表されています。イスラエルは主にユダヤ教徒、パレスチナはイスラム教徒で成り立っているのですが、 天使は、この2つの異なった宗教の教典に出てくる共通の存在でもあります。

分離壁そのものではなく、ベツレヘムの街中でもバンクシーのアートに触れることができます。

町工場の外壁には、花を投げる少年のアートがあります。暴動に参加していると思わす少年が手に持っているのは火炎瓶ではなく、思いやりの象徴である花束。なんともシニカルです。あらゆる問題の解決策は暴力ではないという、バンクシーの強いメッセージが込められています。

ベツレヘムの観光名所パレスチナヘリテージセンターの壁には、白い鳩のアートが。平和の象徴である鳩が防弾チョッキを着て、さらにスナイパーの標的になっています。武力行使に反対する、バンクシーの皮肉が込められた作品です。

バンクシーのパレスチナへの情熱はストリートアートだけに留まらず、2017年、バンクシーはベツレヘムの分離壁の真横にホテルを建てました。その名も、「世界一眺めの悪いホテル」。ホテルには、パレスチナ出身の地元アーティストの作品を扱うギャラリーや、分離壁の歴史がわかる博物館も併設されています。あまり表立った商業活動をしないことでも有名なバンクシーなだけに、彼のパレスチナへの熱の入れようはこのホテルからも伝わってきます。分離壁自体が観光地化することに賛否両論があるのはあるようなのですが、バンクシーのおかげでパレスチナ問題を詳しく知った人が数知れずいることには間違いありません。

ちなみにアートが多く描かれた壁の先駆けといえば、ベルリンの壁ではないでしょうか。およそ30年前、テレサーチはベルリンの壁崩壊時にも現地へ向かい、ニュースレポートを発信しました。パレスチナの分離壁による隔たりも、いつの日かなくなることを願うばかりです。